― 遺書 ―
飯塚隆彦様 あなたがこれを読んでいるという事は、私はもうこの世にいないでしょう。 良くある書き出しだけど、やっぱりそういうことなんだよね。 だってこれ、ホントに万が一のために、病室の机の引き出しに仕舞っておくものだから。 無事に退院する時には、私がそっと持って帰るつもりで。 でも、その万が一の事が起こってしまった、ってことなんだよね。 隆彦の手に、これが渡ったってことは。 書き始めてみたけど、遺書ってどうやって書いたらいいのか分からないなぁ。 ただの手紙っぽくなっちゃうかも。 私が隆彦に手紙を書くのも、実は初めてかもしれない。 カードぐらいしか、渡したことないもんね。 あ、そう言えば、バレンタインにチョコレートと一緒にあげたカード、何書いたっけ。 「好きです」とか書いたのかな。 そうだったらなんか恥ずかしいなぁ・・・。 そりゃ、今も大好きだけどね、隆彦のこと。 私、初めて隆彦に会った時、隆彦のこと、すごく落ち着いた感じの人だと思ったよ。 隆彦、私より三つも年上だし、お兄ちゃんの友達ってみんなそんな感じだったし。 でも、隆彦が何回かうちに遊びに来て話をしてるうちに、見かけよりもずっと子どもっぽい人なんだって分かって、びっくりしちゃった。 あ、悪い意味じゃなくて、すごく純粋な人なんだなぁって思った。 だから、隆彦に好きって言ってもらえた時、すごく嬉しかった。 ありがとう。 隆彦と付き合えて、ホントに嬉しかった。 幸せだったよ、私。 受験の時も、隆彦がいてくれたから、頑張れた。 センター試験の日の朝、「もう駄目かも」ってメールしたら、隆彦、「もう1日だけ、頑張っておいで。美咲が今まで良く頑張ったの、俺は知ってるよ。だからきっと大丈夫」って、返事くれた。 だからね、せめて今日だけでも、頑張ろうって思った。 あの時、隆彦がいてくれてほんとに嬉しかった。 せっかく背中を押してもらって受かったのに、大学、卒業できなくてごめんね。 これからが本題なんだけれど、私が死んでも泣かないでほしいってこと。 私、隆彦の笑顔が大好き。 隆彦が泣いたら、私も悲しくなっちゃうから。 隆彦が泣いたところって、そんなにたくさん見た事ないけどね。 私の前で弱音を吐いて泣いてくれるのは、私のこと信頼してくれてるってことだろうから、それはそれで嬉しかった。 でも、やっぱりもどかしくて、悲しかったよ。 隆彦は、笑ってる顔が一番素敵だから。 だから、泣かないで。 それから、新しい彼女、早く探してね。 私は死んでしまったから、隆彦が最初で最後の恋人だけど、隆彦は生きてるから、私が最初で最後の恋人って訳にはいかないもんね。 やっぱり悔しいけどね、隆彦に、私よりも好きな人ができるっていうのは。 でも、隆彦には幸せになって欲しいから。 私が隆彦のこと、幸せにしてあげるって言ったけど、死んじゃったらできないもんね。 誰かに託すしかない。 だから、素敵な彼女さん、作ってください。 でも、忘れないでね、私のこと。 二人で話した未来のこと。 一緒に遊びに行ったこと。 喧嘩したこと、楽しかったこと。 私という人間が、いたこと。 2年間、幸せでした。 本当にありがとう。 誕生日、お祝いしてあげられなくてごめんね。 多賀美咲 P.S. よーし・・・ちょっと遺書っぽくなったかな。 しんみりしても仕方ないなぁ、これ、絶対隆彦にあげるわけじゃないし。 手術までもう少しだし、早く治るように前向きに頑張っていかなきゃね。 何年後かにこれが出てきたら、恥ずかしいかも・・・。 目次へ戻る |